早押しクイズの番組などを観ていて、「なぜこの人はこんなに早く正解を導き出せるのか?」と感じたことはないだろうか。
『君のクイズ』は、クイズプレイヤーたちが何を考えて早押しボタンを押すのか、その頭の中を詳細に描いた小説である。
物語は、主人公のクイズプレイヤー・三島玲央の敗北から始まる。
玲央は界隈でも有数のクイズプレイヤーであり、大会での優勝経験も豊富。
そんな彼が出場したのは、優勝賞金1,000万円の大型大会「Q-1グランプリ」。
リアルタイムで放送されるその大会で、決勝戦まで駒を進め「優勝まであと一問」というところまでたどり着いた。
決勝の対戦相手は、本庄絆というクイズプレイヤー。
彼は凄まじい記憶力の持ち主で、100人以上いる歴代ノーベル賞受賞者を1日ですべて暗記する偉業を成し遂げたが、クイズ界に頭角を現したのは最近のことだった。
玲央と本庄は「次に正解したほうが優勝」という状況にまで接戦を繰り広げる。
極限まで集中していた玲央は、「今日は勝てる」と意気込み、最終問題へ。
ところが、「問題」という司会者の声が聞こえた直後、なんと本庄絆はボタンを押した。
まだ問題文が一文字も読まれていないにも関わらず、クイズに正解したのである。
玲央は何が起きたのかわからず、その場に立ち尽くす。
「そんなことがあり得るのか?」
玲央をはじめ、本庄絆の不可解な正答を目にしたクイズプレイヤーたちもまた、目の前に起きている事態を飲み込めなかった。
玲央ほどのクイズプレイヤーになると、まだ数文字しか読まれていない問題文からその後に続く文章を予測し、正解を導き出すことは可能なことだった。
しかし、本庄絆の「0文字押し」だけは、どう考えても不可能なことだった。
「本庄絆はヤラセを働いたのではないか?」
玲央や周りのクイズプレイヤーたちがそう思うのは当然だった。
Q-1グランプリの終了後、本庄絆や番組サイドからは何の説明もなく、SNSは炎上状態に。
「真実を知りたい」
そう思った玲央は、本庄本人や番組プロデューサーとコンタクトをとろうと試みるが、彼らからの返信はない。
仕方なく、動画サイトにアップされている、本庄が過去に出場したクイズ大会の映像などを調べ始めた。
やがて、本庄がこれまでにどんなクイズ人生を歩んできたのか、「0文字押し」に至る背景が浮き彫りになってくる。
一体、Q-1グランプリ決勝で本庄が使った「魔法」とは何だったのか...?
冒頭からその世界観に一気に引き込まれ、一気読みだった。
クセがない文章のため読みやすく、ページ数も200ページに満たないくらいなので丁度良かった。
早押しクイズのテクニックやクイズプレイヤーたちの思考が詳細に解説されており、非常に興味深かった。
2023年本屋大賞にノミネートされるのも頷ける作品。この機にぜひ読んでみてほしい。