ふらっと読書録

小説好きのサラリーマンによる読書録。ネタバレ込みで感想を記録します。

黄色い家/川上未映子

 

あらすじ・書籍情報

著者   : 川上未映子
出版   : 中央公論新社
初版   : 2023年2月25日
ページ数 : 601

こんな人におすすめ!

  1. 考えさせられるような小説を読みたい人
  2. 本屋大賞ノミネート作品を読みたい人

登場人物

  • 伊藤 花(いとう・はな)・・・主人公。母親に愛想をつかし、黄美子と共に暮らし始める。
  • 吉川 黄美子(よしかわ・きみこ)・・・花のもとに突如やってきた女性。
  • 加藤 蘭(かとう・らん)・・・花・黄美子と共に暮らす。
  • 玉森 桃子(たまもり・ももこ)・・・花・黄美子と共に暮らす。

感想

冒頭の時点で、どう転んでもハッピーエンドにはならないことがわかる。

破滅に向かって少女たちがどんな道筋を辿るのかを見守るような読書体験。

罪を犯すことはいけないことのはずなのに、身分証もなく銀行口座さえ作れない花ちゃんが通れる道はこれしかなかったのでは、と考えてしまう。

「親ガチャ」という言葉はあまり好きではないが、花ちゃんはまともな家に生まれてさえいればまともな道を進めただろう。

母親がピースサインで「200万貸して」と言ってきたシーンはゾッとしすぎてホラーかと思った。               

成瀬は天下をとりにいく/宮島未奈

 

あらすじ・書籍情報

著者   : 宮島未奈
出版   : 新潮社
初版   : 2023年3月15日
ページ数 : 201

こんな人におすすめ!

  1. 気楽に読めて、元気が出る小説を読みたい人
  2. 2024年の本屋大賞ノミネート作品に興味がある人

登場人物

  • 成瀬 あかり(なるせ・あかり)・・・主人公。人生最大の目標は「200歳まで生きること」。
  • 島崎 みゆき(しまざき・みゆき)・・・成瀬の幼馴染。成瀬と共に漫才コンビ「ゼゼカラ」を組み、M-1グランプリに挑戦する。

感想

最強で最高の主人公が現れました。こんな人間になりたかった。

「成瀬あかり」にまつわる6つの短編が収録されています。

成瀬は誰とも群れることなく、哲人のような口調で、スケールの大きいことに挑戦しようとします。成瀬は生まれてから「緊張したことがない」ほどの強メンタルです。

「とにかくなんでも挑戦してみる、失敗してもどれかが花開けばそれで良い」という精神でいろんなことにチャレンジする成瀬の、何事にもひたむきに、まっすぐに取り組んでいる姿に元気をもらえるのです。

暗いニュースに溢れた昨今ですが、成瀬はそんな雰囲気も吹っ飛ばしてくれそうです。                

スピノザの診察室/夏川草介

 

あらすじ・書籍情報

著者   : 夏川草介
出版   : 水鈴社
初版   : 2023年10月25日
ページ数 : 287

こんな人におすすめ!

  1. 心温まる物語を読みたい人
  2. 2024年の本屋大賞ノミネート作品に興味がある人

登場人物

  • 雄町 哲郎(おまち・てつろう) ・・・原田病院で働く内科医。通称「マチ先生」。
  • 美山 龍之介(みやま・りゅうのすけ)・・・哲郎の甥。中学生。母親を亡くしたため、哲郎が面倒を見ている。
  • 南 茉莉(みなみ・まつり)・・・研修医。研修の一環で原田病院を訪れる。
  • 花垣 辰雄(はながき・たつお)・・・大学准教授。医師としての哲郎を信頼している。

感想

スピノザの面白いところは、人間の努力というものを肯定した点にある。

すべてが決まっているのなら、努力なんて意味がないはずなのに、彼は言うんだ。

"だからこそ"努力が必要だと 

医師として非凡な実力を持ちながら、とある理由で京都の小さな病院に勤めている哲郎と、個性豊かな医師たち。みんな優しくて心が温まる...

人は何のために生まれて、どこへ向かうのか。皆にかならず訪れる「死」の直前に、人は何を思うのだろう。想像すると不安が止まらなくなる。

マチ先生のようなお医者さんに最後に出会えたら、安心して旅立つことができるんだろうな。

願ってもどうにもならないことが、世界には溢れている。

意志や祈りや願いでは、世界は変えられない。

そのことは、絶望なのではなく、希望なのである。

オランダの哲学者・スピノザが残した言葉。

「意志の力だけではどうにもならない」と説く一方、「だからこそ努力すべき」と。

理解できるようで理解しきれない感じがします。

マチ先生やスピノザが真に言いたかったことは何なのか、考え続けたい。

                                                           

存在のすべてを/塩田武士

 

あらすじ・書籍情報

著者   : 塩田武士
出版   : 朝日新聞出版
初版   : 2023年9月30日
ページ数 : 464

こんな人におすすめ!

  1. 「至高の愛」に触れたい人
  2. 本屋大賞のノミネート作品に興味がある人

登場人物

  • 門田 次郎(もんでん・じろう) ・・・新聞記者。30年前の誘拐事件の謎を追う。
  • 内藤 亮(ないとう・りょう)・・・誘拐された3年後に帰ってきた少年。
  • 土屋 里穂(つちや・りほ) ・・・亮の学生時代の同級生。

感想

緊迫した誘拐事件のシーンからはじまる。警察の奮闘も空しく、誘拐された「内藤亮」という少年が帰ってくることはなかった。

しかし、事件から3年が経ったある日、亮は祖父母の家に帰宅する。

彼は3年の間、一体どこで何をしていたのか?謎に包まれたまま、事件は幕を閉じる。

30年後、事件当時に警察を担当していた新聞記者の門田は、当時活躍した刑事・中澤の死をきっかけに、亮が誘拐されてから帰ってくるまでの「空白の3年」の秘密に迫るため、様々な人物のもとを訪れます。

関係者を訪ね歩いて得たピースを正しく嵌め込むうちに浮かび上がってきたのは、犯罪とは対極にあるはずの「愛情」であった

次第に明らかになったのは、亮が「とある画家」のもとで3年を過ごしたということ。

誘拐された亮は本当に不幸だったのか?本当の家族とは何か?

読んでいるうちに自然と考えさせられました。

2024年の本屋大賞にノミネートされたことがきっかけで手に取りました。2020年に本屋大賞を受賞した凪良ゆうさんの『流浪の月』と似た雰囲気もありました。

ページ数が多いので、じっくり味わいながら読んでみてください。

コンビニ兄弟 テンダネス門司港こがね村店

 

あらすじ・書籍情報

九州だけに展開するコンビニチェーン「テンダネス」。その名物店「門司港こがね村店」で働くパート店員の日々の楽しみは、勤勉なのに老若男女を意図せず籠絡してしまう魔性のフェロモン店長・志波三彦を観察すること。なぜなら今日もまた、彼の元には超個性的な常連客(兄含む)たちと、悩みを抱えた人がやってくるのだから…。コンビニを舞台に繰り広げられる心温まるお仕事小説。6編の連作短編集。

著者   : 町田その子
出版   : 新潮文庫
初版   : 2020年8月1日
ページ数 : 348

こんな人におすすめ!

  1. 心温まるストーリーに癒されたい人
  2. 人生に悩みを抱える人

登場人物

  • 志波 三彦(しば・みつひこ) ・・・テンダネスの店長。
  • ツギ・・・街の「なんでも屋」。
  • 中尾 光莉(なかお・みつり)・・・テンダネスの従業員。漫画を描くのが趣味。
  • 桐山 良郎(きりやま・よしろう)・・・漫画家になる夢を諦めた塾講師。

感想

テンダネスというコンビニのイートインスペースを中心に、門司港の悩める人々が集まり、彼らなりの一歩を踏み出す瞬間が描かれます。

一度夢を諦めた塾講師、人間関係に悩む女子中学生、還暦を迎えた男性などがテンダネスに来店します。

コンビニを利用する客の姿、そこにある悲喜こもごもを見るのが何よりしあわせなのだ

テンダネスの店長・志波や「なんでも屋」のツギは、各短編の脇役として登場し、訪れる人々を陰からサポートする役回りです。

誰かしらの悩みに共感し、感動できる小説だと思いました。

綾辻行人 館シリーズ全作紹介【ネタバレなし】

有名ミステリー、綾辻行人の「館シリーズ」のあらすじを紹介します。

各作品の間に直接的なつながりはないため、どの作品から読んでも楽しめますが、共通の登場人物がいるため第1作から順番に読むのがおすすめです。

第1作 十角館の殺人 ~ページを捲った瞬間に訪れる、衝撃の1行

十角形の奇妙な館が建つ孤島・角島を大学ミステリ研の7人が訪れた。館を建てた建築家・中村青司は、半年前に炎上した青屋敷で焼死したという。やがて学生たちを襲う連続殺人。ミステリ史上最大級の、驚愕の結末が読者を待ち受ける!
1987年の刊行以来、多くの読者に衝撃を与え続けた名作が新装改訂版で登場。

原点にして頂点。ミステリー好きなら必読の一冊。次作も読みたくなること間違いなしです。

第2作 水車館の殺人 ~過去と現在をつなぐ仮面の主人

仮面の当主と孤独な美少女が住まう異形の館、水車館。1年前の嵐の夜を悪夢に変えた不可解な惨劇が、今年も繰り返されるのか? 密室から消失した男の謎、そして幻想画家・藤沼一成の遺作「幻影群像」を巡る恐るべき秘密とは……!? 本格ミステリ復権を高らかに謳(うた)った「館」シリーズ第2弾、全面改訂の決定版!

「十角館」に登場した島田潔が、中村青司が建築を手がけた水車館を訪れます。1年前と現在の出来事が平行して語られてゆき、最後に真相が明らかになります。

第3作 迷路館の殺人 ~ミステリ作家・鹿谷門実の登場

奇妙奇天烈な地下の館、迷路館。招かれた4人の作家たちは莫大な“賞金”をかけて、この館を舞台にした推理小説の競作を始めるが、それは恐るべき連続殺人劇の開幕でもあった! 周到な企みと徹底的な遊び心でミステリファンを驚喜させたシリーズ第3作、待望の新装改訂版。初期「新本格」を象徴する傑作!

シリーズの中でも人気が高い作品。正統派のクローズドサークル。これ以降の作品を読む上で必読の作品だと思っています。

第4作 人形館の殺人 ~異色の館、迫りくる影

父が飛龍想一に遺した京都の屋敷――顔のないマネキン人形が邸内各所に佇(たたず)む「人形館」。街では残忍な通り魔殺人が続発し、想一自身にも姿なき脅迫者の影が迫る。彼は旧友・島田潔に助けを求めるが、破局への秒読み(カウントダウン)はすでに始まっていた!? シリーズ中、ひときわ異彩を放つ第4の「館」、新装改訂版でここに。

シリーズの中では異彩を放つ作品。飛龍想一という男の一人称で語られる。

第5作 時計館の殺人 ~シリーズ最大スケールの殺人劇

鎌倉の外れに建つ謎の館、時計館。角島・十角館の惨劇を知る江南孝明は、オカルト雑誌の“取材班”の一員としてこの館を訪れる。館に棲むという少女の亡霊と接触した交霊会の夜、忽然と姿を消す美貌の霊能者。閉ざされた館内ではそして、恐るべき殺人劇の幕が上がる!第45回日本推理作家協会賞に輝く不朽の名作、満を持しての新装改訂版。

シリーズの中でも人気が高い作品。個人的にも一番好きな作品です。「十角館」に登場した江南孝明が再登場。

第6作 黒猫館の殺人 ~記憶を失った老人

大いなる謎を秘めた館、黒猫館。火災で重傷を負い、記憶を失った老人・鮎田冬馬(あゆたとうま)の奇妙な依頼を受け、推理作家・鹿谷門実(ししやかどみ)と江南孝明(かわみなみたかあき)は、東京から札幌、そして阿寒へと向かう。深い森の中に建つその館で待ち受ける、“世界”が揺らぐような真実とは!? シリーズ屈指の大仕掛けを、読者(あなた)は見破ることができるか?

読者の腕が問われるようなトリックです。じっくり読み進めるのがおすすめ。

第7作 暗黒館の殺人 ~闇の一族、恐怖の宴

蒼白い霧の峠を越えると、湖上の小島に建つ漆黒の館に辿り着く。忌まわしき影に包まれた浦登(うらど)家の人々が住まう「暗黒館」。当主の息子・玄児に招かれた大学生・中也は、数々の謎めいた出来事に遭遇する。十角塔からの墜落者、座敷牢、美しい異形の双子、そして奇怪な宴……。著者畢生(ひっせい)の巨編、ここに開幕!

超大作。シリーズファンなら必ず読むべき。理由は読めばわかります。

第8作 びっくり館の殺人 ~幼き記憶、密室の惨劇

あやしい噂が囁かれるお屋敷町の洋館、その名もびっくり館。館に住む少年と友だちになった三知也たちは、少年の祖父が演じる異様な腹話術劇におののくが……クリスマスの夜、ついに勃発する密室の惨劇! 悪夢の果てに待ち受ける戦慄の真相とは!? ミステリーランド発、「館」シリーズ第8弾、待望の文庫化。

個人的にはシリーズの中で一番不気味な作品。節々に現れる挿絵が恐怖を煽ります。

第9作 奇面館の殺人 ~仮面を被った客人達

季節外れの吹雪で孤立した館、奇面館。主人影山逸史に招かれた六人の客はそれぞれの仮面を被らされた。前代未聞の異様な状況下で、事件は進展する。主人の〈奇面の間〉に転がっていたのは、頭部と両手の指を切り落とされた凄惨な死体。六人の仮面には鍵がかけられていた。名探偵・鹿谷門実の圧巻の推理が始まる!

シリーズ最新作(2023年8月現在)。全員が仮面を被らされた異様な状況だからこそ起こる事件とトリック。

葉桜の季節に君を想うということ ~華麗なる叙述トリック

 

あらすじ・書籍情報

かつては探偵事務所で働き、いまは「何でもやってやろう屋」を自称して気ままな生活を送る「俺」成瀬将虎。
ある日、高校の後輩のキヨシの頼みで、彼が密かに惚れている久高愛子の祖父の不審死と、高額で布団や健康食品を売りつける蓬莱倶楽部の調査を引き受ける。
そして同日、駅のホームで飛び込み自殺しようとした女・麻宮さくらを助けたことで、運命の歯車が回り始める――。

蓬莱倶楽部の悪徳商法を調査する将虎の軽妙なハードボイルド探偵の活躍を楽しむあなたに、ラストで襲い掛かる大どんでん返し!?

日本推理作家協会賞本格ミステリ大賞ダブル受賞&「このミステリーがすごい!」「本格ミステリベスト10」で第1位!
中居正広さんほか、たくさんの著名人も激賞!
二度読み必至の究極の徹夜本です。

 

著者   : 歌野晶午
出版   : 文春文庫
初版   : 2007年5月10日
ページ数 : 469
 

こんな人におすすめ!

  1. ミステリーが好きな人
  2. 華麗な叙述トリックに騙されたい人

登場人物

  • 成瀬 将虎(なるせ・まさとら) ・・・主人公。元私立探偵。
  • 麻宮 さくら(あさみや・さくら)・・・自殺を図った女性。将虎によって助けられる。
  • 久高 愛子(くだか・あいこ)   ・・・祖父の不審死について将虎に調査を依頼する。
  • 古屋 節子(ふるや・せつこ)   ・・・多額の借金を抱える60代半ばの女性。

感想・まとめ

いわゆる「叙述トリック」(巧みな文章によって物語の中の人物ではなく 読者自身を騙すトリックの事)が使われており、序盤で張り巡らされた伏線が終盤に一気に回収されます。見事に騙されました。

主人公・将虎の視点を中心に描かれており、様々な時間軸で起きた出来事が断片的に語られます。最初は「今どの時代の出来事?」と少し混乱しましたが、読みにくさは感じませんでした。

俺は、麻宮さくらに特段の興味はなかったし、二度と会うこともあるまいと思っていた。

物語は、主人公の将虎が、久高愛子という女性から、愛子の祖父の不審な死について調査を依頼されるところから始まります。愛子の祖父・隆一郎は交通事故によって死亡しましたが、その事故の影には「蓬莱倶楽部」という怪しい組織がちらつきます。
そんな折、将虎は偶然、駅のホームから降りて自殺を試みていた女性、麻宮さくらを救出します。さくらが自殺をしようとしていたことについて、二人は駅員から取り調べを受けますが、将虎の機転によって難を逃れます。
節子はもうどうしようもないほど邪悪の泥沼にはまりこんでいた。
視点が変わり、古屋節子という女性が登場。この人、本当に困ったもので、60代半ばと良い年齢にもかかわらず、お金の使い方に節度がない。
怪しい健康食品や寝具に高額のお金を費やし、多額の借金を抱えてしまいます。離れて暮らす息子に頼ることもできず、借金の返済に苦労します。なんとか借金を返済するため、怪しい仕事を引き受けてしまいます。
節子に高額の健康食品や寝具を売りつけ、さらに怪しい仕事を持ち掛けた組織こそが、「蓬莱倶楽部」だったのです。

頭で考えただけで結論を出してしまうやつは、結局その程度の人間でしかない。

様々な時代で暗躍する「蓬莱倶楽部」を秘密を暴くため、将虎は調査を進めます。久高隆一郎の死の真相、麻宮さくらの謎、「蓬莱倶楽部」の真実。

すべてが明かされるとき、思わず「えっ!?」と声が出てしまうくらい、衝撃の真実が明らかになります。

あなたは自力でその真実にたどり着けるでしょうか?