表題作「逆ソクラテス」は、私にとってすごく印象的であり、ある意味では「救い」とも呼べる物語でした。
伊坂幸太郎さんの作品『逆ソクラテス』は、小学生時代をテーマとした小説5作から構成される短編集です。
小学校という閉鎖的なコミュニティの中で、子どもがどのように大人や世界を捉えているのかという視点がすごくリアルで、誰にとっても共感しやすい作品なのではないかと思います。
特に表題作「逆ソクラテス」が印象的でした。
担任の先生から「劣等生」のレッテルを貼られたクラスメイトを救うために、主人公を中心とする数人の生徒があれこれ画策するという物語です。
主人公の親友である「安斎」というクラスメイトが登場するのですが、彼がとてもよくできた子どもなのです。
クラスという狭い世界の中で、児童にとっては絶対的な存在である「久留米」という担任教師は、何かにつけて「草壁」という児童に対して「劣等生」扱いをします。
そんな中で草壁を救うために作戦を立て実行する中心人物が安斎なのです。
彼のバックボーンは詳しくは描かれていないのですが、「大人の決めつけには絶対に屈してはいけない」という強い信念を持っています。
クラスの中での担任教師の影響力の強さを客観的に理解しており、「久留米が草壁を不当に劣等生扱いすることで、その認識がクラス全体に広がり、草壁が本当に劣等生になってしまう」ことを誰よりも危惧しています。
物語の中で最終的に何かが大きく変化する、ということはないのですが、安斎少年が勇気を出し、久留米先生に面と向かって「ダメな人間だと決めつけられるのは嫌だ」と(声を震わせながら)言い放った場面が印象的でした。
私自身の学生時代を振り返ると、この作品で描かれているような「大人の理不尽な言動」に屈してしまうことが幾度となくあったように感じます。
そんな時、安斎少年のように強い信念を持って自分の意見をしっかり言うことができていたら良かったと思います。
社会人として日々会社で働く今でも、上司の理不尽な物言いにはしっかり抵抗しなければ自分を守れないと感じることが多くあります。
「逆ソクラテス」は、小学生はもちろん、大人になった読者にも心に響くものがあるのではと感じます。